あまい
あ、白だ。
クラスの女の子、カナちゃんのお腹の肌色の中、色が剥げて白色になっているところが見えた。
あの子も「飴人間」なのね。
自分の脱いだ制服を放り投げて体操服を着ながら、私はそう思った。あの子も飴人間なのね。
私も「飴人間」だ。
私たち「飴人間」と「人間」は共存している。見た目は完璧に同じ。だけど、中身が全く違う。彼らは血が通っているけど、私たちには砂糖が通っている。彼らは血色を持っているけど、私たちは着色料を持っている。
もちろん、彼らと私たちの間で様々ないざこざがあったけど、今ではこうして私が問題なく、彼らと同じ女子高生をすることができている。見た目が全く一緒で、考え方もほとんど一緒だったら、私が何であったって問題ないんだと思う。
体育館でボールを追いかけ回しながら、私は汗と呼ばれる甘い水を流す。同じくボールを追いかける女の子の手が口の横に当たる。ちょっとなめた。しょっぱい。
あまいか、しょっぱいか。
それが私たちの違い。
「でさ、先輩の首もとに白い痕があったの」
体育館の端で、隣の女の子たちが話している言葉が聞こえた。休憩タイムに入った私にその子たちは「おつかれ」と手を振るので、「ありがと」と返しながら「なんの話?」と話に入る。
「先輩の首元に白い痕があったって話。やっぱ、同じ部活のあの先輩と付き合ってるっていうから……」
意味ありげに笑う友だち。それだけで私達は通じ合ってしまう。
先輩は飴人間で、きっとそういうことをしたのだろう。
飴人間を人間が舐めると色が落ちてしまう。もちろん、後から色をつける人もいるけど、その白い痕を「愛されている証」として残している子も多い。きっと先輩もそうなのだろう。
「いいなぁ。人間なんて、キスマークつけたって消えちゃうんだよ」
「え、そういう相手いるの?」
「違うよー!」
みんなが笑うから、私も笑う。だけど、彼女の言った言葉を私は頭の中でもう一度呟く。
人間のキスマークは消えちゃうんだ。
「ねえ、カナちゃんって彼氏いるの」
みんなが着替え終わって、教室に向かってしまった。更衣室には私とカナちゃんの二人きり。
カナちゃんは着替える手を止めて、私を見た。カナちゃんの上半身はブラジャーだけが身につけられているけど、それよりもへその横の白い痕に目がいく。
「いるよ。これ?」
その白い痕の横にカナちゃんの指がのびる。
「首だと目立っちゃうから、お腹にしてって言ったの。ほら」
カナちゃんが私に近づいて来る。
「触ってみる?」
私は少しかがんでその白い痕に舌をのばす。そっと触れる。ちょっと固い、飴人間のお腹の感触。少し柔らかい私の舌と重なっても、飴同士じゃ色を奪うことができない。
「どう?」
「あまい」
味なんて分からないけど、そんな気がした。
妖怪三題噺「飴、同胞、白」
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